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#018

京都府京友禅職人
池内 真広

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京友禅職人 
池内 真広

Ikeuchi Masahiro
1981年 京都府生まれ

京友禅の工房を営む家に生を受けるが、その仕事に興味を抱くことはなく、将来を意識することもなかった。

しかし、大学在学中に京友禅の魅力に目覚め、友禅染の着物を一から作り上げていく染色作家になることを決意。

大学卒業後、友禅作家である父・池内路一みちかず氏に師事。

以来、技と感性を磨くべく研鑽の日々を送っている。

友禅の特徴ともいえる糊置防染のりおきぼうせんという手法は、
下絵の線に沿って糸のように糊を置き、異なる色が混ざることを防ぎ、思いのままの絵柄を染めることを可能にした。

池内 真広さん インタビュー
この仕事を志した経緯は?

作業場と自宅が別だったこともあり、大学生になるまでは父の仕事姿を見ることもなく、興味を持つこともありませんでした。現に、学生時代は、野球やサッカーなどのスポーツに夢中だったんです。自分は普通にサラリーマンになるだろうな、と思っていました。

ですが、年齢を重ねると共に、自然に父の仕事に興味がわきはじめ、時間を見つけて展示会や仕事場に顔を出すようになりました。

父がお客さんと対話していたり、作品を展示したりする風景を見ていくうちに、とても魅力的な仕事だなと実感したんです。それで、自ら選択してこの道に進むことに決めました。

古都「京都」に生まれ育ち、「着物」という日本独特の文化に携われる環境に育ったということは、本当に恵まれていることだと、感謝しています。

今は「独立すること」と、「一人で展示会をすること」の2つを目標に、自己研鑽する毎日です。

今回模様をつけるのが「ロウ吹雪」という作業。
小刻みにロウを落とし、粉雪が舞い散っているかのように表現する。
引き染めの段階で布を真紅に染めると、ロウで覆われた模様が浮き出る。

跡を継ぐプレッシャーはありますか?

父がはじめた仕事ですし、代々受け継いでいる「家業」というわけはなかったので、プレッシャーは全くありませんでした。

ですが、伝統と格式のある工芸の中で独創性・個性を表現していくのは、とても難しいことです。その中で、少しでも良い職人になるためには日本の文化的な背景とか、情緒みたいなものに精通する必要があると考えています。だから、休みの日は美術館を巡ったり、お寺参りをしたりしていますね。何でも貪欲に吸収して力にしていくつもりです。

ここに来るまでも山あり谷ありで色々ありましたが、やめようと思ったことは一度もありません。

日本の文化に携われているという幸せを忘れたくないですね。

池内 真広さん
弟子
池内 真広さん
池内 路一さん
師匠
池内 路一さん

師匠 池内 路一さん
インタビュー

真広さんについてどう思いますか?

私は、生まれは愛媛なのですが、京友禅の奥深さに魅せられ、京都に移り住んできました。

京友禅は、手間を省くための「型染め」や、細かな工程ごとに専門の職人がいる「分業制」が主流です。しかし私は、自身が納得いく作品を作るため、本来の「手書き」の技法にこだわり、作品の肝となる工程は全て一人で行うようにしています。

息子に跡を継がせる気は全くありませんでした。というのも、技術だけなら伝統的に継承していけるのですが、感覚を継承していくのは難しいと思っていましたので。無理して継がせても、なかなか思うようにはいかないだろうと思ったんです。

池内工芸では、個人客から直接注文を受ける「あつらえ」が中心です。着る人の雰囲気や好みなどを直接確かめ、作品に反映させることを大切にやってきました。

お客さんと真摯に向き合いながら、ものづくりへの探究心を忘れずに精進していってもらえればと思います。

取材を終えて

物腰が柔らかく、ふんわりとした空気をまとう真広さん。

けれど作品に対する姿勢は厳しく、求める色が出せないときには自分への苛立ちを隠しませんでした。

絵の具のパレットのようにいくつもの色で染まった布を見つめ案を巡らせる姿は、厳しい世界に生きる職人そのもの。

そんな中でも取材スタッフに「このままじゃ帰れなくなっちゃいますよね、すみません…」と気遣うのが真広さんらしいところ。

完成した作品には、彼の厳しさと優しさがにじみ出ているように感じました。

畳

京友禅

多彩で絵画調の模様を着物に施す、京都を代表する染色技法。

江戸時代中期、京都の扇絵師・宮崎友禅斎が、扇に用いられる絵柄を取り入れ、絹の布を染める「友禅染」と呼ばれる染色技法を確立したのが始まりとされている。

京友禅の持つ柔らかな色彩と繊細な図柄、金箔や金糸などを使った華やかな装飾は、日本の着物の代名詞とも称されている。