Suzuki Ayano
1989年 宮城県生まれ
一人の職人の手によって守られてきた「仙台埋もれ木細工」の伝統と技術。
4年前、就職活動中に「仙台埋もれ木細工職人」の後継者を募集していることを知り、最後の職人であった現在の師匠 小竹 孝氏に弟子入りを志願。
「仙台埋もれ木細工」の最後の担い手として研鑽の日々を送っている。
面接を受けるため師匠の工房を初めて訪れた時、実際に作業を体験させていただきました。
初めて埋もれ木を削った時の「これだ!」という感触、一瞬で埋もれ木の虜になりましたね。そして、なんといっても木目が魅力的。地中に埋まっていた間に押し潰されて、木目が普通の木より細かいんです。
その美しさを作品に調和させるのは難しいのですが、逆に上手くいった時は何とも言えない幸せな気持ちになります。今は難しいデザインを作れるかが課題になっています。花などの細やかな造形はデザインに落としこむのが難しいのですが、そういう作品に挑戦していくことで、少しでも師匠に追いつきたいと思っています。
埋もれ木は500万年前に地中に埋まった樹木の化石です。「これってとってもロマンチックじゃないですか!」、長い時間をかけてできた材料で作るこの工芸品を、後世の人に知ってもらえるよう、私にできることは何でもやりたいです。
材料に限りがあることや、埋もれ木細工一本で家族を養うことは難しいので、弟子を取ることは全く考えていませんでした。しかしその一方で、折角の伝統と技術が途絶えてしまうのは寂しいとも思っていました。
女性でしたら家庭に入って育児をしながらでもできるのではないか。ある意味、内職のように考えてくれれば良いと思って、女性の弟子を取ったのです。
あとは、彼女に埋もれ木細工の「語り部」になってもらえたら嬉しいですね。
私がいなくなった後、「埋もれ木細工というのはこんなに美しいものなんだよ」、「職人にはこういう人がいたんだよ」、そして「番組の取材を受けたこともあるんだよ」なんて(笑)。
語り継いでくれる人がいたら、「私もやったかいがあった」と思えるじゃないですか。
鈴木さんの師匠 小竹氏は、若い頃は漫画を書いて東京の出版社を巡り歩いたという画力の持ち主。今年の4月には絵本を出版している。
「この仕事を始めた頃は、他の道に惹かれることもあった」という。しかし、埋もれ木細工の面白さや、技術の奥深さに気づいてからは、直向きに邁進してきた。
そして、最後の職人となり、たった一人で埋もれ木細工の技術と気品を守り抜いてきた。
そんな師匠が迎えた最初で最後の弟子。
「語り部になってくれるだけでもいい」と優しく微笑みながら語る師匠。その微笑みに、鈴木さんはきっと応えてくれるに違いない。
埋もれ木とは、500万年前に地中に埋まった樹木が炭化し化石のようになったもの。
1822年、青葉山の山肌に露出していた古い地層から埋もれ木が発見され、それを使って器を作ったのが「埋もれ木細工」の起原とされる。
明治時代から大正時代にかけて家庭用燃料であった亜炭の採掘がさかんになると、同じ地層から埋もれ木も豊富に掘り出され、最盛期を迎える。
しかし、石油や電気が燃料として普及すると、昭和30年代には亜炭採掘は終了。それに伴い、埋もれ木も採取不可能になった。
現在、材料の埋もれ木は小竹氏が所有するものが全てであり、それが尽きると約200年続いた「仙台埋もれ木細工」の歴史は幕を閉じる。