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#088

千葉県鴨川萬祝染職人
鈴木 理規

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鴨川萬祝染かもがわまいわいぞめ職人
鈴木 理規

Suzuki Riki
1990年 千葉県生まれ

大正14年創業、 鴨川萬祝染 かもがわまいわいぞめ の技術を継承する「鈴染」の四代目。

アメリカでのホームステイを経験し、将来は英語力が活かせる仕事に就きたいと考えていた。

大学4年生の時、アメリカ横断の旅で訪れたカリフォルニア州モントレーのギャラリーで偶然、祖父栄二氏が製作した大漁旗と出会い、それに運命を感じ、家業を継ぐことを決意。

以来3年間、技術習得のため研鑽の日々を送っている。

千葉県鴨川市江見地区。
大漁や五穀豊穣を願う祭りで青年団が纏う「萬祝まいわい

鈴木 理規さん
インタビュー

この仕事を選んだ理由は?

家業を継ぐとは思っていませんでした。就職活動を終え、一般企業に就職する予定でしたから。でも「自分が家業を継がないと、鴨川萬祝染の技術が途絶えてしまうんじゃないか…」というモヤモヤした気持ちはあったんです。そんな気持ちに整理をつけたくて、アメリカ横断の旅に出ました。

その旅の途中、たまたま立ち寄ったギャラリーで祖父が作った大漁旗を見つけたんです。

家でやっていることが海外に届くほどの影響力を持っていたのかと、すごく感動しました。

このことをきっかけに「自分にしかできないことをやりたい」という思いが大きくなり、家業を継ぐ決心をしました。

実を言うと、旅行先は東南アジアでした。旅に出る直前にアメリカに変更したんです。

だから本当に運命を感じましたね。祖父はその1年前に他界したので、祖父が導いたのかもしれません。今ではこの仕事を選んで本当に良かったと思っています。

萬祝まいわい」は漁師の祝い着であり、
大漁旗のルーツであるという。

鴨川萬祝染の魅力は?

萬祝染の特徴は原色を多く使っているので、他の染物に比べて力強さと迫力があることです。

もともとは漁師さん達のものなので、派手でおめでたい感じを演出するのにぴったりだと思います。

しかし、鴨川萬祝染は伝統工芸の中でもまだまだマイナーな存在ですから、多くの人に知ってもらうことが目標です。ゆくゆくは萬祝染の技術や図柄をバッグや小物などにも活かしてみたいですね。

また、学生時代に身に付けた英語力を活かして、外国の方々にも知ってもらえる活動も視野に入れています。

実物の魚により近い色合いを追求する。

師匠 鈴木 幸祐さん
インタビュー

職人としての理規さんは?

「家業を継ぐ」と言った時は、嬉しかったけれど、不安もありましたね。

かなりの年数を経ないと満足行く作品はできませんし、厳しい世界には違いないですから。

職人は、一にも二にも、いかにその仕事に集中できるかが大事なんです。そういう意味では一生懸命、熱心に取り組んでいる姿は頼もしいです。

経験を重ね、自ら一生懸命やっていく、職人の道はそれしかないと思っています。

江戸時代から続く萬祝染の製法を受け継いでいる人は、すごく少ないので、それが「武器」になります。あとはそれをどう広めていくかですね。技術を応用して新しい作品に挑戦したり、勉強した英語もうまく活用できたりすると良いですね。

そしてゆくゆくは、こんなに素晴らしい伝統技術が房総の地にあるということを、皆さんに伝える存在になってくれることを期待しています。

弟子 鈴木 理規さん
弟子
鈴木 理規さん
師匠 鈴木 幸祐さん
師匠
鈴木 幸祐さん

取材を終えて

取材中、ご自宅に招待していただきました。広間には、祖父の栄二さん自らが萬祝の図柄を描いた「襖」がありました。入学、卒業、就職。記念撮影と言えばその襖をバックにしてきたそうです。家族の成長をずっと見守ってきた大切な場所。

その襖を見ながら「自分の偉大な先生なんですよ」と、理規さんは言いました。製作にあたって配色に迷うことは日常茶飯事。そんな時、この襖にヒントをもらうそうです。

祖父の作品が導いてくれた道、その道中でも、祖父の作品はいつも理規さんを支えてくれています。

鴨川萬祝染

鴨川萬祝染かもがわまいわいぞめ

萬祝 まいわい 」とは、網元や船主が漁師をねぎらい開いた「大漁祝い」の宴会のこと。

その席では、毎回、新調したお揃いの祝い着が全員に贈られた。いつしか、その祝い着自体を「萬祝」と呼ぶようになった。

萬祝は、江戸時代後期に房総半島で誕生したと言われており、この風習は主に太平洋沿岸に広く浸透し、北は青森・南は静岡にまで普及。絵柄も様々で、房総で獲れる魚や、鶴亀・七福神・扇松竹梅など、200種類以上にものぼる。