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京表具 修復師 
間部 ななせ

Mabe Nanase
1993年 静岡県生まれ

祖母が家で藍染や機織りをしていたため、幼い頃から伝統工芸への関心が高かった。そして、テレビで観た「漆で神社の修復をする仕事」に心惹かれ、高校ではデザインを専攻。京都の大学に進学した後は、漆を扱う「蒔絵」を学んだ。

在学中、修復に関連する分野で、「表具の世界」があることを知る。掛軸修復の技術の高さ、作品を美しくするだけではない修復の意義を知り、修復師になることを決意。

「作品を後世に伝える、それは作者の想いも後世に伝えること」。こうした信念のもと、京表具 藤田月霞堂で修練の日々を送っている。

およそ550年前に書かれた掛軸を修復する。
横折れや亀裂が歴史を物語る。

間部 ななせさん インタビュー
修復師という仕事とは?

この仕事をはじめて一番驚いたのは和紙の凄さですね。水をかけて洗っているのを見た時はビックリしました。「和紙ってこんなに強いんだ」と感動したのを覚えています。

最初の頃は掛軸に触ることでさえ怖かったです。一点一点が貴重な作品ですし、状態も傷みが激しくボロボロでしたので、私が触っていいのか不安でした。

しかし、ありがたいことに、これまで300もの修復作業をやらせていただき、今では少し自信がついてきています。ボロボロだった作品が綺麗になっていくのは、やはり楽しいです。今では「私には修復の仕事に向いている」そう思えるようになりました。

大学では漆を学んでいましたが、表具との共通点は「丁寧に作業しないと、決して良いものは出来ない」というところですかね。丁寧に作業してこそ、はじめて何百年、何千年も受け継がれる作品となり、技術も継承されていくのだと思います。

肌裏はだうらをピンセットで剥がしていく。
本紙ほんしを傷つけることは絶対に許されない。

どのような修復師になりたいですか?

今回は約550年前の貴重な掛軸を修復しました。長い間、何度も修復を重ねて作品が残り続けたということが凄いですよね。修復をしていると、100年前の職人がどのような作業をしていたかがわかります。「前回に負けない修復をしよう」と毎回毎回、真剣です。100年後、私の次に修理する人には「こんな丁寧な仕事をしているのか」、そう思わせる仕事をしたいです。

表具に携わる人は年々少なくなってきていますので、日本の美術品や書画などが、この時代で途絶えてしまわないためにも、責任と誇りを持って取り組んでいきたいです。

また、単に修復するだけでなく、作者や大切にしている持ち主の想いも一緒に、次の世代に繋げられるような仕事をすることが夢ですね。

間部 ななせさん
弟子
間部 ななせさん
藤田 芳夫さん
藤田月霞堂 四代目
藤田 芳夫さん
藤田 竜也さん
藤田月霞堂 五代目
藤田 竜也さん

五代目 表具師・修復師
藤田 竜也さん インタビュー

若い世代に期待することは?

伝統工芸の世界では「修業中は簡単な仕事しかさせない」というのが当たり前だったと思います。しかし今、表具師が減っている中で、悠長な時間はありません。世の中には、時を経て修復が必要な美術品が沢山ある一方で、どんどん新しい作品や書家の方が生まれています。早急に新しい修復師を育てないと、日本の伝統文化がなくなってしまいかねません。

僕の目の届く範囲ではありますが、経験の少ない新人でも実際の作品に触れさせ、作業をやってもらおうと思っています。本物に触れて初めて分かることが山ほどありますので、どんどん挑戦してもらうつもりです。

何百年前のものでも、十年前のものでも、すべての作品は貴重な一点もの。いかなる作品を修復するときでも真摯な気持ちを大切に取り組んでもらいたいですね。

本紙ほんしの色にあわせた濃淡3枚の和紙を喰い裂きにし、
正麩糊しょうふのりでつなぎ合わせる。

四代目 表具師
藤田 芳夫さん インタビュー

掛軸の修復とは?

書画を掛軸にする目的は、作品を保護するためと鑑賞するためです。作品だけでは劣化しやすく傷みやすいのです。それを和紙で補強して、作品を引き立てる裂地きれじを周りに付けて仕立てていきます。我々は「七割保護・三割鑑賞」という心づもりで作業しています。先人たちの作品や技術を後世に残し、その想いも感じられるように修復することが大事ですね。

一度修復するとだいたい100年はもつのではないでしょうか。そして、修復で使った糊の粘着力が無くなって、補強に使った和紙が浮いてきた時が次の修復のタイミングです。

修復を重ねるからこそ作品は長持ちします。日本の大切な文化を守るためにも我々の仕事は必要なんです。

取材を終えて

物音がしない静寂の中、ただひたすら和紙を剥がす。

和紙を知り、糊を知り、書や絵画を描いた作者の想いさえも知ろうとする職人の姿。

こうした職人たちの卓越した技術と情熱が、数千年もの間、作品を守り、今に伝えてくれているのだと感じました。相当な集中力を要し、常に緊張感が漂う一つひとつの作業に、いつしか時が経つのも忘れ、見入っていました。

休憩中、「肩は凝らないの?」と聞くと、屈託のない笑顔で「仕事終わりにマッサージに行きます!」と答えてくれた。日本の伝統文化を守るという責任と誇り、そしてこの笑顔によって、作品や作者の想いは確かに次代へと繋がれていく、そう感じました。

京表具

京表具きょうひょうぐ

表具・表装の目的には、鑑賞だけではなく保存も含まれる。

寺社、宮中、茶道の家元といった表具に関わりの深い文化と歴史の都、京都で発展。

洗練された美意識、床の間の完成や茶の湯文化と共に広がり、西陣織や吉野の紙など良質な材料にも恵まれ、京都の表具は「京表具」と言われるようになった。

書画と一体の品格、匠の技、日本の美意識を極限まで追求した伝統工芸と言える。

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