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甲冑師
加藤 拓実

Kato Takumi
1996年 東京都生まれ

五月人形の兜や鎧をつくる「甲冑師かっちゅうし」の家に生まれる。幼い頃から工房へ行き、祖父や父の仕事を見聞きしており、中学生の時には甲冑師になる決意を固めていた。そして、父と同じ都立工芸高校に進学し、金工技法を学ぶ。卒業後、工房へ入り祖父と父の下で本格的に甲冑師としての修行を始め、今年で5年目となる。技術の習得だけでなく、歴史背景や時代考証にまで及ぶ専門的な知識を身につけるべく、研鑽けんさんを積んでいる。

真鍮しんちゅうでできた板の穴を重ね、鋲を打つ。
そして裏側に飛び出た部分を叩いてつぶす。
溶接の無い時代、金属をつなぎ合わせる技法として生み出された。

加藤 拓実さん インタビュー
跡を継ごうと思ったきっかけは?

昔から祖父と父の仕事を見ていて、実際に出来上がった作品を目の当たりにすると「わぁ、すごいなぁ!」と感動を覚えました。自然と「自分もこういうものを作りたい」と思っていて、中学で進路を決める頃にはもう「甲冑師になろう」と本気で考えていましたね。

甲冑作りで大事なことは?

江戸甲冑は、戦で使われていた鎧兜の材料や作り方をなるべく忠実に再現して作っているので、本物を知ること、見ることがとても重要ですね。袖だったり首だったり、自分の命を守る為にどこを工夫したらいいか、また時代の経過とともに戦い方も変わるので、それに合わせて作りも変わっていることが分かります。やっぱり本物を知ってた方が楽しいですしね。 五月人形は飾りですが、昔の人がどうやって自分の命を守っていたかという知恵と技術が込められているので、そういうのを残していくのは大切だなと思います。

弓矢や刀から首を守る「しころ」作り。
小さな部品をいくつも重ねることで動きを滑らかにする。
さらに糸で固定し、絹の組紐くみひもで繋ぎ合わせる。

今後の目標は?

作り方以外にも覚えなくてはいけないことがものすごくたくさんあるので、まずはそれを覚えたいです。例えば部品の名称も武将ごとに違いますし、この形にはどんな意味があるのかといった時代考証も勉強しなくてはいけません。それからまだ兜しか作れないので、鎧も早く作れるようになりたいです。
昔見て感動した鎧兜はこんなに大変な作業を重ねて作られてきたんだなと、職人になって初めて知りました。買っていただいた方に自分の人生を通して大事にしてもらえるような、感動を与えられるような鎧兜を作れるようになりたいです。

加藤 拓実さん
弟子
加藤 拓実さん
加藤 美次さん

加藤 美次さん
加藤 鞆美さん
祖父
加藤 鞆美さん

祖父
加藤 鞆美さん インタビュー

甲冑づくりの難しさは?

「いかに本物に近づけるか」が大事な江戸甲冑ですが、実はあえて「嘘」をつくことも必要なんです。すべての部分をそのまま縮小して作るとバランスが崩れて、むしろ実物と異なるイメージになってしまうことがあるからです。あと何ミリ長さを調節すればいいか、その微妙なさじ加減は経験を積まないと分かりませんね。
かつて戦で使われた甲冑の技法というのは、文書として残っていないんです。ですから実物を見て学ぶしかないんですが、実際に見ても分からないことがたくさんあります。どういう紐の通し方をすればこの模様が出るのか、化学製品がない時代にどうしてこの色が出せるのか…そんな謎がまだまだあって、一生勉強ですし、とてもおもしろいです。

取材を終えて

「甲冑」と聞いてまず思い浮かんだのは、戦国時代に鎧兜を身にまとい荒々しく戦う武将の姿。しかし取材を進めていくと、そのイメージはごく一部にしか過ぎないことが分かりました。そもそも「鎧と兜」のことを「甲冑」と呼ぶことはもちろん、弓矢から刀、そして鉄砲へと戦い方が変わるにつれ、甲冑もその姿を変えていったことを初めて知りました。そして甲冑は防具だけではなく、技術の粋を集めた美術品であるということも。「江戸甲冑」の製法を目の当たりにすると、その意味がよく分かります。

「できるかぎり本物を忠実に再現する」とはいうものの、聞けばその製法は記録として残されていないとのこと。先代や鞆美さんが全国を歩き回って実物を見たり、文献の調査をしたことで今に繋がっているという。

子どもの健やかな成長を願い飾られる五月人形には、甲冑師の「日本の宝を後世に残したい」という強い想いも込められていることを知り、感動を覚えました。

江戸甲冑

江戸甲冑えどかっちゅう

実際に使われていた甲冑を忠実に再現して作られる五月人形や観賞用工芸品のこと。
8~12世紀、武将が戦で全身を弓矢から守るための防具として登場した「大鎧」と呼ばれる甲冑をモチーフとし、入念な時代考証のもとに再現された重厚な意匠と質実剛健が特徴とされている。

本物の甲冑と同様に細部まで手作業で作り、また、金工や漆工、染織皮革などの技術が結実した工芸品である。

昭和61年、東京都の伝統工芸品に指定。平成19年、「江戸節句人形」の名称で国の伝統的工芸品に指定された。

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