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#157

北海道 二風谷アットゥシ 織物職人
森を紡ぎ 伝統を織る―

柴田 幸宏

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※ アットゥシのシはアイヌ語では小文字表記となります

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二風谷アットゥシ 織物職人
柴田 幸宏

Shibata Yukihiro
1989年 北海道出身

北海道の音更町に生まれる。
29歳まで調理師としてレストランで働いていたが、30歳になる時に「やりたかったことをやってみよう」と思い立ち、子どもの頃に歴史の資料集で見た「アットゥシ」をインターネットで検索し、本物のアットゥシを見るために二風谷を訪れた。
その後、技術を学ぶために平取町の地域おこし協力隊に参加し、伝統工芸士の貝澤雪子さん、藤谷るみ子さんから教えを乞う。
現在は修業を積みながら、アットゥシの魅力を伝える活動や、新たな可能性を追求している。
※ アットゥシのシはアイヌ語では小文字表記となります

木の皮から作った糸で織られている珍しい織物のアットゥシ。
3ヶ月水につけたオヒョウの木の皮を柔らかくなるまで煮込み、表面を洗う。
さらに皮の層を薄く剥がして乾燥させたのち、細く裂いて撚って糸にする。

柴田 幸宏さん インタビュー
アットゥシの魅力

手触りや、見た目の素朴な質感も好きなんですけど、木の皮から糸が手作りで作られているところがやっぱり好きですね。織り進んでいる時に手で触ると、しなやかでとても心地いいです。
水にも強くて、汗をかいてても肌に張り付かない素材なので、昔は漁師さんが使っていたみたいですが、僕はもっといろいろなものに適性がある便利な素材だと思っています。
国の伝統的工芸品とは言え全国的な知名度はまだまだですし、北海道の人にすら知られていないので、まずはアットゥシのことを知ってもらいたいです。

織物職人への道

貝澤さんのお手伝いからスタートしたんですが、柔らかくなった木の皮を薄く剥がす作業を初めてやる時に「これができなかったら職人としてはやっていけないよ」って言われました。もちろん下手でしたが、貝澤さんは僕の作業を見て「あなたはできるかも」って言ってくれました。
アットゥシ作りは良い糸を作ることが何より重要なので、地味で細かい作業の繰り返しになりますが、一つひとつ手を抜かずにやることが大事だと思っています。自然のものなので、やりやすい時もあれば全然うまくいかないこともあります。むしろ、うまくいかないことの方が多いです。でもどんなにやりづらい時でも、綺麗な製品を作るのが職人の技術だと思っています。
※ アットゥシのシはアイヌ語では小文字表記となります

腰当てを装着し機織りをする。腰当てを使い、糸を張ったり緩めたりしながら織っていく。
下糸と上糸を入れ替え、通した横糸をヘラで押さえつける。この工程を何度も繰り返し前へ織り進める。

理想の職人の姿

貝澤さんや藤谷さんの織ったアットゥシを見ると、まっすぐで隙間もなく、本当にきれいなんです。僕はまだ隙間ができて、両端が曲がってしまいます。やってみて初めて分かるんですけど、熟練の技術ってそう簡単に身に付くものじゃないと思います。
伝統的な衣装作りもできるようになりたいですが、普段使いの物をアットゥシで作っていきたいです。
織物系の工芸品は全国にたくさんありますけど、小物だとどうしても女性向けの製品が多いんですよね。アットゥシの素朴な感じは男性にも馴染みやすいと思うので、日常的に使う物を作っていきたい気持ちが強いです。
※ アットゥシのシはアイヌ語では小文字表記となります

柴田 幸宏さん
二風谷アットゥシ織物職人
柴田 幸宏さん
藤谷 るみ子さん
アットゥシ織り職人 伝統工芸士
藤谷 るみ子さん
貝澤 雪子さん
アットゥシ織り職人 伝統工芸士
貝澤 雪子さん

師匠 アットゥシ織り職人 伝統工芸士
貝澤 雪子さんインタビュー

人付き合いがうまくて誰とでも仲良くやっていけるので、馴染むのが早かったですね。 勉強熱心で「こうやってみたら?」って私が言うと、何でもやってみるところが良いと思います。 上達も早いです。最初は糸の結び目も大きくて、織り目も揃ってなかったけど、今は全くない。 技術的には今のままやっていけば大丈夫だと思いますが、将来的に人を教える立場になることを考えると、資格だったり賞だったり、そういうものがあった方が自信にもなると思うので、そういうことにも目を向けていってほしいですね。

師匠 アットゥシ織り職人 伝統工芸士
藤谷 るみ子さんインタビュー

最初に糸結びを教えながら話したことを今でも覚えてます。「なんでイタ(アイヌの伝統的な木彫りの工芸品)じゃなくてアットゥシにしたの?」って聞いたら、一言「織りがやりたかったんです」って。アイヌの伝統を受け継ぎたいと思って来てくれたことはとても嬉しいです。
今は大変かもしれないけど、良いものは必ず人の目に留まるはずだから、諦めずにやってほしいですね。
※ アットゥシのシはアイヌ語では小文字表記となります

取材を終えて

二風谷アットゥシは他に類を見ない伝統的工芸品だ。 糸づくりから機織りまで、手間と時間をかけた織物。柴田さんがその世界に飛び込んで5年。師匠は柴田さんを「こだわりが強い。職人にはこだわりが無いとだめ」と評価していたが、私は「意志の強さ」もあると思う。 取材中に「辞めたいと思ったことは?」と尋ねると「考えたことない。アットゥシをやりたくて来たんだから」と言う。取材を重ねるうちにその言葉に嘘はないことがわかった。 意志の強さがあるからこそ、アットゥシでスーツやネクタイ、自転車のハンドルテープなど様々なもののチャレンジしているのだろう。これからもグッとくるアットゥシを織り続けてもらいたい。
※ アットゥシのシはアイヌ語では小文字表記となります

二風谷アットゥシ

二風谷アットゥシ

アイヌの伝統的技法によって樹皮からできている糸を用いて作られた織物を「アットゥシ」と呼ぶ。 北海道の沙流川流域から道内各地に拡がったと言われ、平取町二風谷地区を中心に継承されている。 アイヌの人々はアットゥシでハレの日や日常用の衣服を作り愛用してきた。 江戸時代以降、アットゥシの特徴である、ねじれやよじれ、水に対する強さから、和人からの需要が高まり、アットゥシの反物一反と米数俵が交換されるなど優れた交易品となった。 2013年に北海道では初めて、二風谷イタと共に「二風谷アットゥシ」として国の伝統的工芸品に指定された。
※ アットゥシのシはアイヌ語では小文字表記となります

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