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津軽塗 塗師
小林 正知

Kobayashi Masakazu
1986年 青森県出身

青森県弘前市にある津軽塗工房「小林漆器」の5代目 小林孝幸の長男として生まれる。
家業を継ぐつもりはなかったため、大学を卒業した後は東京の一般企業に就職した。
25歳の時、父から津軽塗後継者育成研修所の研修生募集があること、募集は3年半に一度だけであることを聞きき「この機会を逃したら津軽塗を学ぶチャンスはない」と家業を継ぐ決意をする。
研修を終えた後、実家の小林漆器で経験を積む。
今年1月には代表取締役に就任。正式に工房の6代目として新たな一歩を踏み出した。

色漆を重ねて唐塗り独特の模様を作る。
薄い小さな金属片で梨子地を施していく。

小林 正知さん インタビュー
職人の家に生まれて

実家が伝統工芸やっていると「身近すぎてよくわからない」というのがあると思うんですよ。
僕も典型的なそのパターンで、後を継ぐなんて一切思っていなかったんです。
子どもの頃は美術とか図工の成績はものすごい悪かったですし、自分には職人は向いてないと思ってました。
ですから研修所に入るまで工程の一つも知らなかったですし、唐塗りが何かも知らなかったんです。
でも勉強してみると色と塗り方で組み合わせが無限にあることを知って、とても奥が深い世界ということが分かりました。

塗師としての喜びとこれから

自分の作った漆器がお客様の手に渡った時のリアクションを見るのが楽しくて好きなんですよね。新規のオーダーで作ったものが喜ばれた時はもちろん嬉しいんですが、リペア(修復)で新品同様の状態に戻ったのを見た時の驚いた表情もまた、すごく嬉しいです。
作業する時は、同業の職人が見ても素晴らしいと思えるようなものを作ることを念頭に置いてます。
表現方法は無限にあるので、新しい発想やデザインも取り入れやすいのが津軽塗の特徴でもありますが、僕らが作るのはアート作品ではなくあくまでも商品なので、早く正確に、お客様の要望と時代にマッチしたものを作ることが大切だと思っています。

仕上げ研ぎの工程。表面の凹凸を滑らかにし、模様をはっきりと浮かび上がらせる。
荒研ぎでできた細かい傷も丁寧に取り除くことで、綺麗な艶を出す。

伝統を絶やさないために

6代目を継いで、経営者としても勉強しないといけないことがたくさんあります。
今は津軽塗がどうやってできているのかといったところや、職人たちの技術力の高さをSNSの動画などで発信していく準備を進めています。
「伝統的な工芸品はなんでそんなに高いの?」という人もいますが、職人の仕事を見ればなぜこの価格なのか納得していただけると思うんですよね。
また「プレゼントでもらったけど勿体無くて使えない」という方も多いんですが、僕は普段使いの食器として、どんどん使っていただきたいと思っています。

小林 正知さん
津軽塗 塗師
小林 正知さん
今 年人さん
津軽塗後継者育成研修所 講師
伝統工芸士 こん 年人としひとさん

津軽塗後継者育成研修所 講師
伝統工芸士
今 年人さんインタビュー

研修所で教える期間は3年半ですが、基礎の〝き〟を教えるだけでいっぱいいっぱいです。
漆の性質上、アレルギーと戦いながらの人も多くて、3年半で4つの技法全てにチャレンジできない人もたくさんいます。
小林君本人には工芸への苦手意識があったみたいだけど覚えは早かった。根が真面目なので何でもすぐにできるようになっていきました。
6代目になった彼の頑張りは口伝いで届いてきます。伝統的なものを古臭いものにせず、その時代に求められているものを作るのは若い人にしかできないことなので、これからも新しいことをどんどんやってほしい。
そのうち小林君も指導する側になると思いますので、津軽塗を絶やさないよう頑張ってほしいですね。

取材を終えて

津軽の地元愛を感じる取材だった。
小林正知さんの願いは津軽塗を「産業として復活させること」。
番組最後に津軽塗のイベントが登場したが、初日にも関わらず大勢のお客さんが訪れていた。
真剣な眼差しで津軽塗を選ぶお客さん。その様子を見て津軽の人たちの津軽塗への関心の高さ、愛情を強く感じた。
一方で津軽塗を学ぶ研修生たち。それぞれが目標を掲げ、技術習得に真剣に取り組んでいた。志の高い彼らや津軽塗を愛するお客さんたちがいれば、きっと正知さんの目指す津軽塗の復活は成し遂げられるのではないだろうか。
小林さんたち「じょっぱり」の活躍を期待したい。

津軽塗

津軽塗

「津軽塗」は、一般的に津軽地方で生産される伝統漆器の総称。
産地としては、江戸時代に弘前藩の4代藩主 津軽政信が産業育成のため若狭塗の塗師を津軽に招いたことが始まりとされている。
「津軽塗」という呼び名が正式に使われるようになったのは、1873年(明治6年)ウィーン万国博覧会に漆器を展示することとなった際、その産地を明らかにするため名付けられたのが最初と言われている。
塗り重ねた高さの違う漆を丁寧に研磨し模様を浮かび上がらせる「研ぎ出し変わり塗り」と呼ばれる独特の技法とカラフルな色漆による多彩な表現が特徴となっている。
1975年(昭和50年)には国の伝統的工芸品に指定され、2017年(平成29年)にはその技術が重要無形文化財に指定された。

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