Yamamoto Yusuke
1982年 山梨県生まれ
「甲州印傳」の製法を継承する家に生まれる。
中学生の時、父が甲州印傳において日本で唯一の伝統工芸士に認定されたことをきっかけに、印傳職人へ強い憧れを抱き職人になることを決意。
大学を卒業した後、父に弟子入り。
現在は弟とともに、伝統を受け継ぐための研鑽の日々を送っている。
小さい頃から印傳は好きでした。
小学生の時、同じクラスの皆は〝ヒーローもののペンケース〟を使っていました。
でも自分は、小学校の六年間、ずーっと〝印傳の筆箱〟を使っていたので。
「この仕事を継ぎたい」と、具体的に思い始めたのは中学生の頃です。
父が日本でただ一人の甲州印傳の伝統工芸師に認定され、その「伝統工芸師」という響きがものすごく心地良くて、父に憧れ自分もなりたいと思いました。
幼い頃から父が仕事をしている姿を見ていましたので、馴染みがあったはずの印傳作りが、いざ始めてみると学ぶべきことがとてつもなく多くて驚きました。
例えば、漆を載せる鹿革の表。見た目では表か裏か判別できません。触って判断するのですが、最初の頃は触っても裏か表かどうしても同じように思えてしまって…。丸一年経っても分かりませんでした。
今は何枚も何枚も触って革に慣れ、そして、数多くの漆を付け、体で覚えたい。具体的な目標はそれからですね。
このまま仕事を続けて行けば、10年後、脂が乗った「甲州印傳職人」になると思う。
今は、革一枚一枚の微妙に異なる性質をちゃんと理解して、それに応じた繊細な漆、漆の付け方を数をこなして体で覚えていってほしい。
取材の合間、店内の様々な作品を眺めていると、裕輔さんが「甲州印傳をまだまだ知らない人が多いのが実情です。
名前だけは知っていても、本当の良さを知らない人がほとんどです」と、少し寂しように話しかけてきました。
「職人として良いモノを作り続けることはもちろん、印傳を知っていただき〝印傳を持ってみたい〟、そう思っていただけるよう、色々なことにチャレンジしていきたいですね」。そう言って彼は、印傳のスマートフォンケースを見せてくれました。
革は手に馴染み、漆は美しく輝きを放ち、「欲しい!」と思わせる一品でした。
父に憧れこの道に進んだ若者が、こうして新たな道を作っていく、そう思わせるひと時でした。
400年以上の歴史を誇る山梨県の革工芸品。なめした鹿革に繊細な漆柄が施した加工品を「印傳」と呼ぶ。
江戸時代、「東海道中膝栗毛」に「腰に下げたる、印傳の巾着を出だし、見せる」といった記述が残され、当時から、財布や巾着などの袋物として印傳が人々の間で親しまれていたことが分かる。
熟練の職人が一つひとつ手作業で作り上げる甲州印傳は、単に見た目の美しさだけでなく、長く使うほど手に馴染み、風格が増すことでも知られており、その品質の良さと昔ながらの製造工程とで、明治には山梨県の特産品としての地位を築き、1987年には国の伝統的工芸品の指定を受けている。